2006年 07月 27日
「とらドラ!」 第2巻
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シリーズ第2巻です。
読んでいて、「ボクのセカイをまもるヒト」に近い印象を受けました。それはこの第2巻が、伏線を張る事のみにページの殆どを費やしている事に起因します。
ですが、「ボクのセカイをまもるヒト」に関しての印象が良くなかったのに対し、この「とらドラ!」に関してのそれは、肯定的なものです。
「とらドラ!」の場合、第1巻できちんとした終わりを迎える事に一度成功しており、伏線も作品内ですべて回収できています。
「ボクのセカイをまもるヒト」の場合、第1巻で既に続巻を強く意識した構成となっており、それが第2巻にも続きます。伏線は張られていくだけの一方通行で、その回収にページが費やされる事は、今のところは殆どありません。
そして最大の理由が、「とらドラ!」第1巻は率直に面白い作品であるのに対し、「ボクのセカイをまもるヒト」の第1巻は、はっきり言いましてつまらない作品であるという事です。
それでは、この第2巻を単体で見てみた場合、どのようなものになるのかという事を、これから少しばかり書いてみようと思います。
1冊で完結している物語を続編モノへと移行させる場合、新キャラの登場や、新たな展開を迎えさせる事は必須と言えます。同じキャラ達によって紡がれる同じような物語に、多くの人は価値を見出さないと思われるからです。
数少ない例外の1つとして、国民的なアニメの1つである「サザエさん」が挙げられますが、あれはサザエさんだからこそ許される事であり、今新たに他の作品で同じ事をしようとしても、非常に高い確率で失敗してしまうと考えられます。
同じく長期にわたって放送し続けられ、多くの人に認知されたアニメ作品である「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」でさえも、新たなキャラクターの登場や、オリジナルストーリーの劇場版などで、視聴者を飽きさせないための工夫を講じています。サザエさんは、それが無い時点で他のアニメ作品とは決定的に異なるのです。
前置きが無駄に長くなりましたが、要はとらドラ!の第2巻にも新たなキャラクターが登場しましたという事を、私は言いたかった訳です。そのキャラの名前は、川嶋亜美といいます。
現役のファッションモデルでもある彼女は、並外れて端正な容姿を持っているうえ、一見すると性格までも良い、非の打ち所の無い美少女であるように思えます。ですが実は、その人当たりの良さそうな性格は、極度に厚く作られた外面に過ぎないのです。その本性は、かの手乗りタイガーと並び立てても何ら遜色がないほど、混沌の色に染まっています。
簡潔に言いますと、彼女は極端に外面が良いだけで、素の性格はこれまた極端に悪いのです。とは申せ、それがただ性格悪いというだけで終わろう筈もなく。
様々な展開を経て、鉄壁であった筈の彼女の外面は、少しずつ綻びを見せ始めます。それと平行して、単純に悪いというだけの性格でもないという事が見えてきます。
はじめは愉快犯的な思惑で竜児に近付いた彼女でしたが、最終的には竜児の人間性そのものを評価するまでに至ったようです。次巻では、竜児、大河、亜美の3人による、微妙な三角関係が描かれる事になると思われます。
この第2巻の目的は、言うなれば亜美を当て馬となりえるところまで持っていくための布石です。竜児と大河がくっつくにしろくっつかないにしろ、最終的にもっとも近しい位置にあるのがお互いというのはほぼ確定的ですから、今後も含めた亜美の役回りとしては、その段階までもっていくための当て馬であると考えるのが妥当です。しかるに、この第2巻はその準備段階であるという風に捉える事ができます。
前巻のレビューでお互い好き合っているようだなどと書いておきながら、何故「つっつくにしろつっつかないにしろ」というような曖昧な書き方をするのかと言いますと、単に本当にわからなくなってきてしまったからです。
底の方で通じ合っているという風には今でも考えていますが、それが最終的に「くっつく」という形には必ずしも収まらないのではないかと、今では思っています。それは、そう思わされるような展開を、本巻で迎えている事が原因です。
具体的に言いますと、竜児は未だ実乃梨を想い人としたままのようであり、大河もまた北村くんの事を諦めた訳では本当にないようなのです。その描写がどう見ても演技とは思えない事から、実は2人の間柄は、まだそこまでには達していないのではないかという風に、とりあえずの認識を改める事にした訳です。
ですが、順当にいけばやはり、竜児と大河がくっついて終わるとは思います。「ベタ」とか「王道」だとか言われるような作品であるなら、むしろそうでなくてはいけません。
ちなみにですが、本著のオビにコメントを寄せているのは、TYPE-MOONのシナリオライターである奈須きのこ氏です。「こっちの虎」と比較されている「そっちの虎」が誰を指しているのかは、ファンであるなら言うまでもないでしょう。
更に言わせていただきますと、本著においてもっとも衝撃的でもっとも笑えた部分が巻末の「あとがき」だったというのは、私だけではないと信じたいです。著者氏の内面をもっとも強く受け継いだキャラが実乃梨であると確信すると共に、今後の彼女の暴走もとい活躍に大いなる期待を禁じ得ません。
そういえば、本巻では竜児君も新たな一面を垣間見させてくれました。潔癖症とはまた違う、真の意味での掃除好き、清掃狂とでも言うべきその掃除へ傾ける飽くなき執念は、どう見ても、むしろどうも見ないでも明らかに変態です。本当にありがとうございました。
by kidar
| 2006-07-27 11:40
| ライトノベル