2006年 09月 21日
「ロクメンダイス、」
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著者は中村九郎さん、イラストはdowさんです。
端的に申しますれば、恋をしなければ死んでしまう少年と、恋をする事を許されない少女とが、同じような病理を抱える人達と共に、「六面ダイス」と呼ばれる施設で織り成していく、少し不思議なラブストーリーです。
何と申しましても、その風変わりな文体が印象的です。
日本語として破綻する寸前の、まともに読解が可能なぎりぎりの範囲内で文章としての体を保っているそれは、読者の合う合わないの差を、非常に大きなものにしてしまうと思われます。文体にかなり強いクセがあるために、もし合わなかった場合は、最初の十数ページで投げ出してしまうのではないかとさえ思われるのです。
ですが、仮にもし合ったなら、過去に味わったどんな文章より、なお特徴的で面白い文体を知り、そして楽しむ事ができるでしょう。幸運な事に、私は後者でした。
上手いか下手かで申しますれば、間違いなく上手いです。
ライトノベルというフィールドだからこそ許される文体だとは思いますが、それを最大限に利用し、これほど面白い文章を書いたという実績は称賛するに余りあります。
西尾維新さんの文体も特徴的だと思いましたが、この中村九郎さんは、更にその上をいく印象です。
ただ、西尾維新さんの文体が特徴的でありながらもしっかりしているのに対し、中村九郎さんの文体は、幻想的と申しますか、捉えどころのない雰囲気があります。クセの強い文体をお好みで、そういった事柄を気にしない方になら、中村九郎さんの文章は麻薬のような効果を持つのではないでしょうか。
敏感過ぎる心を持つが故に、刺激に反応した心が現実に干渉し、刺激を生み出した存在を攻撃しようとするという、極めて特殊な病理を抱えた少女、チェリー。その病理の所為で彼女は、一切の感情を表に出す事ができないだけでなく、感動する事すらも許されません。好意を寄せる相手に、微笑みかける事さえできないのです。
主人公のハツは、そんな彼女を選んでしまいます。
ハツは、早過ぎる社会の動きに合わせ続け、心を置き去りにした事で、その心が壊れかけてしまっています。何事にも正直に生きる事が病の進行を抑えるための手段で、治すためには恋をしなければなりません。もしできなければ1年後には死んでしまうと宣告され、そして既に半年が経過しているのです。
しかし彼は、見つけます。恋する事ができるかもしれない相手、チェリーという名の少女を。
ただ1つの、そして最大の不幸は、彼女が恋をする事で死んでしまいかねないほどにか弱い存在だったという事です。
この作品は、そんな2人が織り成す珠玉のラブストーリーです。
by kidar
| 2006-09-21 08:30
| ライトノベル