2006年 08月 03日
「紅 ~ギロチン~」
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片山憲太郎氏の著作にして、「紅」の続巻です。
挿絵も同じく、山本ヤマト氏です。氏の個性的な絵柄に惹かれて本著を手に取った方も、少なくないのではないでしょうか。
物語は、前巻にて少しだけ登場した組織、「悪宇商会」からのスカウトが、主人公である真九郎の元に訪れるところから始まります。
「悪宇商会」は、その社名から受ける印象に違わず、いわゆるその筋の人達が多数所属している組織です。実際には、腕利きの人物ばかりを集めた生え抜き揃いの人材派遣会社なのですが、その派遣先の選定において善悪が考慮される事はなく、凶悪極まりない犯罪行為であろうと、またそういった犯罪を鎮圧する特殊部隊であろうと、求められる限りそれに応じるというスタイルを取っているために、結果として裏世界の「悪」としての位置付けを確固なものとしています。
その影響力は計り知れず、表世界のトップに君臨する九鳳院家でさえも、悪宇商会には迂闊に手出しできません。
善悪の別無く、荒事全般に対して最適な人材を選び出し、派遣する組織。道具としての人材であるなら、その善悪を決めるのも使用者である依頼主であり、道具そのものにはそのような属性は付随し得ないというのが彼らの掲げる建前であり、そしてそれは真理でもあります。「悪宇商会」とは、そんな組織です。
真九郎は、前巻の終盤において、その悪宇商会に所属する一流の戦闘屋を、完膚なきまでに叩きのめしたという実績を持ちます。今回のスカウトは、その実力を買ってのものという事でした。
ですが、そういう組織から勧誘を受けるという事は、必然的にそういうスタイルを受け入れるという事でもあります。真九郎は、元々その筋の人達が好きではなかったという事もあり、最初は断ろうとするのですが、自らが師と仰ぎ、超一流の揉め事処理屋である柔沢紅香でさえも、かつては組織に属して下積みを重ねていたという事実を聞かされ、更に紆余曲折を経た上で、最終的には話を受ける事を決意します。
その入社テストと称し、とある人物と引き合わされる事になるのですが、その人物こそ裏十三家の一角である斬島の筆頭、斬島切彦その人でした。
彼女と共に、ある人物を殺害せよというのが、真九郎に与えられるテストとなります。
「切彦」なのに「彼女」という三人称である事に違和感を覚えた方もいらっしゃるかと思います。その内の数%の方々は、あらぬ方向へ期待を抱いてしまわれたかもしれません。その妄想はある意味で正しく、ある意味では間違っています。上記はタイプミスではなく、単に事実を書き表したのみです。
具体的にどういう事なのかは、読んでみてのお楽しみという事で、ひとつ。
さて、今回のヒロインも、九鳳院紫嬢です。前巻にて八面六臂の大活躍を果たした弱冠7歳の少女は、新キャラの登場などものともせず、本著においてもヒロインの座を不動のものとしています。
真九郎はロリコンではないと思われるのですが、違う意味で紫にはベタ惚れしています。それは一般的に兄妹愛とか父性愛だとか呼ばれるようなもので、紫の恋情とは本来絡み合わない種の感情です。しかし、2人の年齢差と、何より紫の幼さが幸いとなってか、絆と呼べるほどに強く絡み合うものとなっているのです。
或いは、その絆の強さは、真九郎が真実ロリコンである事の証拠なのかもしれません。ですが、そうであるならもう少し程度は自覚を持っていてもおかしくはありませんし、また実際の嗜好に表れていない事が不自然と言えます。
つまりこの場合は、紫が特別であると考えるべきでしょう。真九郎はロリコンという訳ではなく、好きになった相手がたまたま幼女であっただけの事なのです。
正解が何処にあるのかを知るためには、作品内の時間を数年ほど進める必要があります。
恐らく出ないとは思いますが、もし10年後を書いた作品が発売されるような事があれば、答えはそこで見付ける事ができるでしょう。
正直に申しますと、本著の終盤に差し掛かるあたりまでは、読んでいて面白いとはあまり思っていませんでした。もっとはっきり言えば、明確につまらないと感じていたのです。
第1巻が傑作でしたから、2作目が駄作と化したとしても、特に不思議でもないという風に思いつつページをめくっていたのですが、クライマックスに至り、その考えが短慮であった事を思い知りました。
あの展開は、何故か予想外だったのです。今思えば当然の帰結ではあったのですが、読んでいる最中には少しも気付く事ができませんでした。
そしてその分、衝撃も大きなものとなり、結果として、本著がシリーズの第2巻を名乗るに相応しい良著であるという確信へ至りました。
第3巻の発売があるかどうかは、今のところわかっていません。とは申せ、これだけ面白い作品であれば、黙っていても周りが放ってはおかないでしょう。そう遠くないうちに、情報が出てくる事になるのではないでしょうか。
by kidar
| 2006-08-03 09:20
| ライトノベル