2006年 09月 08日
「されど罪人は竜と踊る」
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著者は浅井ラボ氏、イラストは宮城さんです。
シリーズ第1巻となります。
本作品には、「咒力」という一般的に言うところの魔法のような能力が登場します。
主人公は、その相棒と共に、咒力を操り依頼を遂行する「咒式事務所」を経営しています。
本著は、そんな彼らの下へいつものように舞い込んできた、役所からのとある下請け仕事を引き受けた事から始まる物語です。
まず目立つのは、主人公ガユスとその相棒ギギナ、そして一部のサブキャラクターに見られる口の悪さです。ガユスとギギナが言葉を交わす際には、6~7割ほどの高確率で、相手に対する罵詈雑言が含まれる事になります。
この2人の口の悪さは生来のものではなく、相手を選んだ上で発せられているようですが、2人の会話の相手がお互いである事が多いうえ、ガユスはギギナに関する独白でも、同様の口の悪さを露呈しているため、必然的に悪口を目にする機会も多くなります。
多少であれば、気にも留めなかったと思うのですが、それがあまりにも多かったために、口汚い言葉をあまり好まない私は、幾分か気になってしまいました。
次いで、大袈裟な言い回しがやたらと多い事も気に掛かりました。
難解というほどではないものの、速やかな理解を妨げるという意味では悪点と申せましょう。
上記2つの要因により、非常にクセのある文章となっています。
正直に申しますと、本著の中頃ほどまでは、私の読解力の乏しさと、その文章の読みにくさを理由に、投げ出す事を割と本気で考えていました。エンターテイメントに関して、出来うる限り気楽に楽しみたいと考えている私にとって、無闇と頭を使わされる文章というのは、非常に相性の悪い存在なのです。
そのような逡巡を押し込め、あとがきまで到達したのは、今思えば賢い選択でした。
前半は退屈でも、後半から面白くなる作品というのは、ライトノベルに限らず数多くありますが、この「されど罪人は竜と踊る」も、その例に漏れない作品だったからです。
前述の通り、本著では「咒力」という一般的に言うところの魔法のような能力が登場しますが、それが現実世界とは物理法則が異なる作品内世界で、当たり前に行使できる能力であると、論理的に説明がなされています。その詳細さは他に類を見ないほどで、その描写に限ってでは、設定の坩堝とでも言うべきかのTYPE-MOON作品をも凌駕しています。
そういった設定を小出しにして読者へと伝え、かつ「前衛」「後衛」などの戦闘に関して理解の容易な用語を使用する事により、戦闘シーンの持つ説得力をより高めようという試みが、本作品ではなされています。それが最大限に功を奏し、本作品の戦闘シーンは、非常に臨場感溢れるものとなっているのです。
後半のそれは特に素晴らしく、現実世界の物理法則に正しく倣って発動する、「咒力」という名の魔法に酷似したそれが、閃光や爆裂、氷結や迅雷、剣閃や疾走を、これでもかというほどに巻き起こします。その描写は徹底して詳細かつ論理的で、普通に読み進めているだけで現場の光景が鮮明に想像できるほどです。
そのような、怒涛の如き戦闘シーンの連続が、後半には待ち受けていました。私にとってのその是非は、もはや言うまでもないでしょう。故に、前半で投げ出さなかった事は賢明な判断だったという訳です。
さて、この第1巻と、番外編も含めた本シリーズは、全8冊にもなります。一気に揃えるには、少しばかり勇気の要る冊数です。
後半が並外れて面白かったとは申せ、読む事に少なくない精神力を消費するというのも紛れもない事実です。そのため、続巻に手を出すかどうかは、今しばらく考えたいと思っています。
by kidar
| 2006-09-08 11:20
| ライトノベル